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研究開発

Research & Development

2026年 No.415(2026年4号、10月)

技術レポート

TOMBO™ No.9007-ML「ナフロン® ML打抜きガスケット」の実機プラントにおけるモノマー流体長期耐久性評価

基幹産業事業本部 プラント技術部 技術サービス課  小井田 大騎
東北大学 未来科学技術共同研究センター 教授  白井 泰雪
日本ゼオン株式会社 川崎イノベーションフロンティアポート
川崎工場 設備管理課長  石田 篤則

1.はじめに

 高分子材料(ポリマー)を製造する化学プラントでは,多種多様な単量体(モノマー)流体が使用されている。モノマー流体が流れる配管ラインでは,図1に示すようなガスケットの破損や流路閉塞により,漏えいが発生する場合がある。こうしたガスケット破損は,モノマー流体がガスケット内部へ浸透することで生じる「花咲き現象」1)に起因している。
 花咲き現象とはガスケット内部に浸透したモノマーが重合して体積膨張を起こす現象で,メカニズムを図2に示す。モノマーがガスケット内部へ浸透・滞留し,浸透したモノマーの一部がラジカル化する。ラジカルを起点として,ガスケット内部で重合が進行し,体積膨張が生じる。この膨張によってガスケットが破壊され,シール機能が失われる。
 モノマー流体に使用されるガスケットは,化学プラントで広く使用されているふっ素樹脂系シートガスケットやうず巻き形ガスケットが,各プラントの過去の使用実績に基づいて採用されることが多い。しかし,科学的根拠に基づく選定が十分でない場合があり,その結果として花咲き現象に起因する漏えいが発生している。
 当社では,プラントのメンテナンス期間の長期化や安定操業を目指し,花咲き現象を抑制するガスケットとして,2016年よりTOMBO™ No.9007-ML「ナフロン® ML打抜きガスケット」(以下,ナフロンML)をラインアップしている。
 本稿では,「ナフロンML」の特長を紹介するとともに,日本ゼオン株式会社殿のご協力のもと実施した各種モノマー流体の浸漬試験および2年間の実機使用評価の結果をもとに,モノマー流体への長期使用における健全性について報告する。

図1 モノマーラインにおけるガスケット破損例
図2 花咲き現象のメカニズム

2.モノマーラインにおける従来ガスケットの使用実態と課題

 実プラントにおける従来ガスケットの使用実態を把握するため,モノマー流体ラインで長期間使用された充填剤入りふっ素樹脂系シートガスケットを取り外し,外観調査を行った。調査対象を表1に,調査結果を図3,4に示す。スチレンラインでは約23%,イソプレンラインでは約7%の割合で,シール性に影響を及ぼし得る大きな変形が確認された。これらはモノマー流体の浸透や内部重合に起因したものと推測され,従来ガスケットでは長期使用時の信頼性が十分でない可能性が示唆された。

表1 外観調査対象一覧
図3 外観調査結果
図4 変形小(左)/変形大(右)の外観例

3.「ナフロン® ML」の特長

 「ナフロンML」の外観写真を図5に示す。「ナフロンML」は,従来の充填剤入りPTFEガスケットと比較し,モノマー流体の浸透を抑制する特殊PTFEをベースに使用し,ラジカルを失活させる特殊添加剤を配合したガスケットである。これにより「ナフロンML」はラジカル重合環境下においても,花咲き現象の発生を抑制できるガスケットである。
 ここで,モノマー流体の一例としてスチレンモノマーを用い,従来ガスケットとナフロンMLに対して浸漬試験を実施した。浸漬試験の条件を表2に,試験結果を図6に示す2)。従来ガスケットでは浸漬時間の増加とともに重量増加がみられ,モノマーの浸透および内部重合が示唆された。一方,「ナフロンML」では重量増加はほとんど認められず,ガスケット内部での重合反応が抑制されていると考えられる。
 この結果から,「ナフロンML」はモノマー流体に対し従来ガスケットより優れた耐性を有することが確認できた。

図5 「ナフロン® ML」の外観例
表2 試験方法
図6 スチレンモノマー浸漬試験結果

4.各種モノマー流体への浸漬試験と2年間の使用における実機評価

4.1 各種モノマー流体での浸漬試験

4.1.1 試験方法
 より広範なモノマー流体での健全性を評価するため,実機ラインで使用されているモノマー流体20種を用いてラボにおいて浸漬試験を実施した。比較として,化学プラントで広く使用されているふっ素樹脂系シートガスケットも同条件で試験した。試料を表3,試験条件を表4に示す。短冊形状に加工した試験片を耐圧容器に入れ,試料が完全に浸漬するまで流体を注ぎ,耐圧容器の蓋を閉じた。所定の温度・時間が経過したのち,試験片を取り出し,ガスケットについた溶媒をふき取った。80℃で5時間乾燥させた後,寸法(縦・横・厚さ)と重量を測定した。浸漬前後の寸法および重量から体積変化率と重量変化率を算出した。

表3 試験試料
表4 試験条件

4.1.2 試験結果
 試験結果を表5に示す。「ナフロンML」以外のふっ素樹脂系シートガスケットでは,スチレン,イソプレン,ブタジエンにおいて浸透・膨潤が生じやすい傾向が見られ,体積・重量の増加が確認された。一方,「ナフロンML」は全てのモノマー流体で体積・重量変化が小さく,内部重合反応が進行していないと推測される。
 以上より,「ナフロンML」は従来のふっ素樹脂系シートガスケットと比較して,さまざまなモノマー流体に対し優れた耐性を有することがわかった。

4.2 2年間の実機使用評価

4.2.1 評価方法
 日本ゼオン株式会社殿全面協力のもと浸漬試験で良好な耐性を示した「ナフロンML」を実機のモノマー流体ライン20箇所に適用し,2年間の連続運転後に取り外して評価した。使用前後の重量を比較し重量変化率を算出した。また,表面に変色が見られた試料については熱重量測定(TG)を行い,未使用品と比較することで重合生成物の有無を確認した。各ラインの運転条件を表6に示す。

表5 各種モノマーにおける浸漬試験結果
表6 実機ライン条件

4.2.2 評価結果
 評価結果を表7に示す。全てのモノマー流体において,「ナフロンML」の重量変化率は3%を超えなかった。一部の流体では表面に変色が見られたが(図7),変色部のTG測定結果(図8)は未使用品と同等であり,重合生成物に起因する異常な減量は確認されなかった。
 また,本評価では,運転サイクル数が多いラインや,モノマー流体中の重合禁止剤平均濃度が小さい条件などさまざまな条件下において「ナフロンML」を使用した。しかしながら,これらの運転条件下においても,「ナフロンML」では内部重合反応の兆候はみられなかった。
 以上の結果から,「ナフロンML」は2年間の長期連続運転においてもモノマー流体による内部重合を起こさず,花咲き現象の抑制およびシール性能の長期安定性が期待できる。

表7 評価結果
図7 変色のあったガスケット外観例
図8 変色のあった「ナフロン®  ML」のTG測定結果

5.おわりに

 本稿では,各種モノマー流体の浸漬試験に加え,2年間の実機使用評価により,TOMBO™ No.9007-ML「ナフロン® ML打抜きガスケット」のモノマー流体への長期使用における健全性を評価した。「ナフロンML」は多様なモノマー流体に対して花咲き現象を抑制し,2年間の実機使用においても漏えいが発生することなく,安定したシール性能を維持できることがわかった。
 この結果より,モノマー流体を取り扱う化学プラントにおいて,従来ガスケットから「ナフロンML」代替することで,課題であった花咲き現象に起因する漏えいリスクを低減し,設備の安全性向上および保全周期の延長につながることが期待できる。今後は,さらに長期使用に対する評価を継続し,より信頼性の高い交換周期の確立を進めていく。

参考文献

1)JIS B 0116:2020,パッキンおよびガスケットの用語
2)モノマーライン向け高機能シートガスケットTOMBO™ No.9007-ML「ナフロン® MLガスケット」ニチアス技術時報.No.372(2016)
http://nichias.co.jp/cms/nichias/pdf/report/2016/372_01.pdf

*®が付されている名称はニチアス㈱の登録商標です。
*「TOMBO」はニチアス㈱の登録商標または商標です。
*本稿の測定値は参考値であり,保証値ではありません。

筆者紹介

小井田 大騎
基幹産業事業本部 プラント技術部 技術サービス課

白井 泰雪
東北大学
未来科学技術共同研究センター 教授

石田 篤則
日本ゼオン株式会社
川崎イノベーションフロンティアポート
川崎工場 設備管理課長