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研究開発

Research & Development

2026年 No.415(2026年4号、10月)

寄稿

放射光X線散乱を用いた結晶化メカニズムの広い空間スケールでの解析

山形大学 大学院有機材料システム研究科 教授  松葉 豪

1.はじめに

 高分子材料は,プラスチックや繊維として,生活の中の幅広いところで使われている。高分子そのものも実際に利用する際においては,射出成形や押出成形,ブロー成形など,溶融した高分子に流動や温度変化を与えて,自由自在の形状で使われている。また,繊維についても溶融させた,もしくは溶液にした高分子を細いノズルから押し出してせん断や流動,延伸,温度変化など複雑なプロセスを経ている。その中で,流動や延伸などを経て結晶化させると静置場での結晶化では観測されない,図1に示すような「シシケバブ構造」と呼ばれる複雑な高次構造が形成される1)~3)。シシケバブ構造は,流動方向に引き伸ばされた伸び切り鎖晶からなる「シシ(shish)構造」と,その周囲にエピタキシャル成長したラメラ晶である「ケバブ(kebab)構造」から構成されている。中でもシシ構造は,高強度・高弾性率材料の分子論的起源と考えられており,その構造形成過程を明らかにすることは,産業面だけでなく科学的な観点からも極めて重要である。一方,せん断流動場における結晶化においては,このような特徴的な結晶形態の形成だけでなく,結晶核生成の大幅な促進も報告されており4),流動が結晶化に及ぼす影響は非常に大きい。
 シシケバブ構造の形成プロセスは,これまでさまざまな手法で調査されてきた。特に,せん断流動場における結晶成長過程では高分子量成分が重要な役割を果たすと考えられており,シシ構造が超高分子量成分によって構成されていることが中性子散乱測定などから明らかになっている。
 そこで本稿では,せん断流動下における結晶化過程での「超高分子量成分の効果」に着目した実験結果について詳述し5),6),その構造形成プロセスを提案する。さらに,せん断流動中における結晶化挙動の評価結果についても併わせて報告する7)~9)。

2.せん断流動と結晶化の相関について

 せん断流動場における構造形成機構を広い空間スケールで解明するため,ミクロンスケールの配向を感度よく評価可能な時分割偏光解消光散乱(Depolarized Light Scattering : DPLS)測定,および時分割小角・広角X線散乱(Small/Wide Angle X-ray Scattering: SAXS/WAXS)測定を用いた評価を試みた。
 実験試料には,超高分子量成分として分子量200万(分子量分布14)の試料を,マトリックス成分として分子量5.8万(分子量分布8)の試料を用い,これらを熱キシレン中で溶解・完全混合させて調製したものを用いた。超高分子量成分の混合比は0~3wt%とした。試料の温度およびせん断条件の制御には,Linkam社製シアーセルCSS-450を用いた。時分割DPLS測定は自製の光散乱装置を使用し,時分割SAXS測定は高エネルギー加速器研究機構(KEK,茨城県つくば市)の放射光研究実験施設にて実施した。測定時の熱・せん断履歴として,まず試料を190℃にて完全に融解させた後,結晶化温度Tx+30℃に達した時点で,せん断速度32s-1,ひずみ量3200%のせん断流動を印加した。流動停止後,結晶化温度Txまで30℃/minで冷却し,その過程における結晶成長および高次構造の形成プロセスを評価した。
 図2に,せん断印加温度157℃,Tx=127℃における二次元DPLS像を示す。超高分子量成分の濃度が1wt%以上になると,せん断方向に対して垂直な方向に強いストリーク状の散乱が観測された。また,時間の経過に伴い,徐々に等方的な散乱が成長していく様子が確認された。これは,せん断印加によってまず配向構造が形成され,その後,等方的な構造へと成長していくことを示している。一方,超高分子量成分をブレンドしない系(0 wt%)においては,せん断による配向構造は観測されず,等方的な構造成長のみが認められた。この結果は,せん断による配向構造の形成が超高分子量成分によって促進されていることを裏付けている。また,他の温度条件における実験から,結晶化温度が高いほど,配向構造の観測に必要な超高分子量成分の臨界濃度が高くなる傾向が明らかとなった。

 これらの光散乱実験の結果を踏まえ,放射光を用いたナノスケールの構造形成過程を明らかにするために時分割SAXS測定を行った。図3に,Tx=116℃における二次元SAXS像の時間発展を示す。超高分子量成分が0.2wt%以上の条件では,せん断方向に平行なスポット状の散乱,すなわちケバブ構造の成長が確認された。さらに,超高分子量成分の濃度上昇に伴って結晶成長が促進され,より初期の時間から異方性散乱が確認された。また,超高分子量成分の濃度を0.2wt%に固定した場合,Tx<125℃では配向構造が観測されたのに対し,Tx>129℃では観測されなかった。この結果は,配向が観測される臨界濃度に結晶化温度依存性(すなわち構造形成過程の温度依存性)があることを示している。つまり,せん断流動結晶化過程は,超高分子量成分の濃度と結晶化温度,換言すれば「分子鎖の緩和時間」と「結晶成長速度」の二つの要素に強く依存しているといえる。

 以上の結果から,超高分子量成分を添加したブレンド試料におけるせん断印加時の構造形成メカニズムは次のように解釈できる。まず,せん断印加前の静置状態において,試料中の超高分子量ポリエチレン鎖は系全体に広がっており,その分子間絡み合い点の密度は超高分子量成分の濃度に依存する。ここにせん断流動を印加すると,超高分子量成分同士の絡み合い点を起点として分子鎖の形態変化,すなわち超高分子量成分の分子鎖の引き伸ばしが生じる。超高分子量成分の濃度が極めて低い場合,絡み合い点の数が不十分となり,せん断を印加しても分子鎖が十分に引き伸ばされず配向構造は観測されないが,ローカルな部分の配向により結晶核の生成自体は促進される。一方,絡み合い点の数が十分に存在する濃度領域でせん断を印加した場合,超高分子量成分の各分子鎖が十分に引き伸ばされることでまずシシ構造が形成され,その後のケバブ構造の形成プロセスがSAXS測定によって捉えられたと考えられる。
 以上のとおり,本研究によって,超高分子量成分の分子鎖の絡み合いと流動誘起結晶化プロセスとの間に密接な相関があることが実証された。

3.せん断流動中の結晶化プロセス

 次に,せん断流動時における高分子鎖の変形やそれが結晶化に及ぼす影響の評価を試みた。広い空間スケールにおける配向構造の形成プロセスを明らかにするため,前述の検討と同様に,せん断流動中の構造形成プロセスをX線散乱および顕微鏡観察を用いて評価した。
 実験には,プライムポリマー社製の市販アイソタクチックポリプロピレン(iPP)を用いた。DSC測定より求めた本試料の融点は160℃である。また,溶融高分子の緩和時間を決定するため,融点近傍の148℃にて微小振幅振動せん断(動的粘弾性)測定を行った。その結果,本試料の最大緩和時間(レプテーション時間)は86s,セグメントの緩和時間(Rouse時間)は2sである。
 せん断流動の強度およびせん断印加温度の制御には,Linkam社製CSS-450を用いた。高速度カメラを備えた偏光顕微鏡(High-Speed Polarized Optical Microscopy : HSPOM)測定6)には,キーエンス社製高速度顕微鏡VW-5000を改造した装置を使用した。本HSPOM装置を用いることで,最大24000frames/sでの画像取得が可能である。さらに,その場(in-situ)SAXS/WAXS測定は,高エネルギー加速器研究機構・物質構造科学研究所の放射光実験施設(PF)のビームラインBL-6Aにて実施した。カメラ長は2.2m,入射X線の波長は1.5Å,ビームサイズは0.2mm四方である。なお,測定にはせん断印加中においてもX線が透過できるよう改良を施したサンプルセルを用いた。
 まず,図4にiPPの融点以下である148℃,せん断速度100s-1の条件下におけるせん断流動中の偏光顕微鏡像の変化を示す。せん断印加のごく初期(8s以下)では,流動中であるにもかかわらず構造変化はほとんど観測されないが,印加開始から9sが経過すると,せん断方向に並んだ配向構造が出現し始めた。この配向構造は,せん断時間の経過に伴って徐々に発達した。
 一方,せん断印加停止後には,2つの異なるプロセスが観察された。一方は領域Aに示される「せん断によって成長した配向構造が融解(消失)するプロセス」であり,もう一方は領域Bに示される「せん断印加停止後に配向構造が徐々に成長(結晶化)するプロセス」である。これら種々のせん断温度およびせん断速度条件下において,出現した配向構造の直径はいずれの条件でも約15μm程度でほぼ一定であった。これに対し,その長さはせん断速度が高く,かつせん断印加温度が低いほど長くなる傾向を示した。この結果は,低温(高過冷却度)かつ高せん断速度の条件下では,より長大な配向構造が形成されやすいことを示唆している。

 図5に,図4と同等の一連の温度・せん断条件下における「せん断印加中およびせん断停止直後のその場SAXSプロファイルの時間発展」を示す。
 図5より,せん断印加のごく初期においては,高分子の溶融状態に起因する等方的な散乱のみが観測された。これは先述した顕微鏡観察の結果(構造変化なし)とも整合しており,単に溶融高分子がせん断によって流動しているプロセスであるといえる。その後,せん断を継続すると12s以降にせん断方向と平行な成分の散乱が観測された。これは,せん断方向(縦方向)に整列・積層した「結晶ラメラ」構造に由来するものである。すなわち,せん断流動によって結晶ラメラ構造の成長が促進され,配向構造が発達したと考えられる。なお,この散乱はせん断停止後においても消失することはなかった。

 そこで,せん断印加中からせん断停止直後における結晶構造の詳細を議論するため,同条件で測定した広角X線散乱(WAXS)プロファイルの解析結果を図6に示す。せん断印加中の12s以降において,iPPのα晶に由来する(110),(040),(130),(111/041)面による反射が観測され,流動下での結晶化の進行が確認された。これは,せん断流動によって結晶核生成が著しく促進され,結晶成長に至った結果である。
 さらに詳細な解析から,せん断印加中にはβ晶由来の(300)面およびγ晶由来の(117)面による反射もわずかに観測された。一般に,β晶は高温での等温結晶化,γ晶は一軸・二軸延伸時に生じる結晶多形である。つまり,本実験においてこれらの結晶構造が観測されたのは,溶融状態でのせん断によって高分子鎖が高度に引き伸ばされ,高温結晶化や延伸配向時と同等の状態が形成されたためと解釈できる。

 これらのピークはせん断停止後にも保持されており,結晶相が系内に安定して存在していることがわかる。しかしながら,算出された結晶化度は,せん断印加中が8.5%であったのに対し,せん断停止後には5.1%へと減少していた。この結果は,「せん断停止後」に形成された結晶の一部が何らかの形で融解(消失)していることを示している。そこでせん断印加中から停止後に生じる構造形成および融解プロセスについて着目する。まず,高分子の平衡融点Tm0は式(1)のとおり,エンタルピーの変化∆Hmとエントロピーの変化∆Smの比によって次のように定義される。
 Tm0=∆Hm/∆Sm……………………………(1)
 一般に,融解エンタルピー変化∆Hmは結晶構造そのものに依存する。本実験においては,せん断流動により形成された結晶構造はほぼα晶であることから,∆Hmは一定とみなすことができる。一方で,せん断がない状態である静置場においては,高分子鎖はランダムコイル状の形態を取っており,流動下の配向メルト状態と熱力学的に大きく異なると考えられる。式(1)で定義される平衡融点Tm0は,このような静置場でのランダムコイル状態と結晶状態のエントロピー差に基づいて定義されているため,流動による分子鎖の配向状態を必ずしも反映していない。そこで,流動誘起配向によるメルトのエントロピーの変化の減少分をδSm(γ・)と定義すると,せん断印加時における平衡融点Tm0(γ・)は,式(2)のとおりに定義される。
 Tm0(γ・)=∆Hm/(∆Sm-δSm(γ・))………(2)
 配向メルト状態におけるエントロピーはランダムコイル状態よりも小さくなるため,その差分であるδSm(γ・)は,δSm(γ・)>0となる。したがって,せん断印加中の平衡融点は,静置場でのランダムコイル状態での平衡融点より高くなると考えられる。つまり,せん断印加中は平衡融点の上昇に伴って結晶核生成や結晶成長のドライビングフォースとなる過冷却度が大きくなるため,結晶成長が促進される。しかし,せん断印加の停止後は,配向していた分子鎖が急激に緩和してランダムコイルに戻る。これにより平衡融点が低下して,過冷却度が小さくなり融点を上回るため,形成されていた結晶の一部が融解し,結晶化度の減少につながったと解釈できる。

4.おわりに

 本研究では,高分子のせん断流動誘起結晶化プロセスにおいて,マルチスケールでのその場(in-situ)測定を相補的に駆使し,高次構造発現挙動とそのメカニズムを解明した。得られた知見を以下に総括する。
 構造形成の濃度・温度依存性:超高分子量成分が臨界濃度(0.2~1wt%以上)に達すると分子鎖の絡み合いを起点とした延伸が生じ,シシケバブ構造の形成が著しく促進される。この臨界濃度は結晶化温度が高いほど上昇する明確な温度依存性を示した。
 延伸同等環境の形成:iPPの流動結晶化において,α晶に加え,通常は延伸下などで発現するβ晶およびγ晶が誘起された。これは,溶融せん断流動により延伸場と同等の結晶化環境が過渡的に形成されたためである。
 流動停止後の部分融解と熱力学的解釈:流動停止後に結晶化度が8.5%から5.1%へ減少する特異な現象を見出した。流動中は分子鎖の延伸配向によるエントロピー減少(δSm(γ・)<0)に伴い平衡融点が上昇し,結晶成長のドライビングフォースとなる過冷却度が増大する。しかし,流動停止後は速やかな配向緩和(ランダムコイル化)によって平衡融点が本来の温度へ降下し,過冷却度が急激に減少するため,不安定な微細結晶などが局所的に融解に至ったと結論付けた。
 総じて,高分子の流動誘起結晶化は,単なる速度論的な結晶核生成の加速にとどまらず,配向と緩和に伴うメルトのエントロピー変化が系の平衡融点(過冷却度)をダイナミックに変化させる熱力学的な現象であることを実証した。

参考文献

1)A. J. Pennings et al., Kolloid-Z. u. Z. Polymere, 205, 160 (1965).
2)Z. Bashir et al., J. Mater. Sci., 21, 3993 (1986).
3)T. Kanaya et al., Macromolecules, 40, 3650 (2007).
4)H. Fukushima et al., Polymer, 46, 1878 (2005).
5)G. Matsuba et al., Macromolecules, 40, 7270 (2007).
6)Y. Ogino et al., Macromolecules, 39, 7617 (2006).
7)Y. Zhao et al., Macromolecules, 46, 172 (2013).
8)K. Li. et al., Polymer, 171, 8 (2019).
9)李 クンほか,材料,68(1),6(2019).

筆者紹介

松葉 豪
山形大学
大学院有機材料システム研究科 教授