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研究開発

Research & Development

2026年No.414(2026年3号、7月)

技術レポート

ふっ素樹脂ガスケットの面圧低下挙動

三菱ケミカル株式会社 石田 貴大
三菱ケミカル株式会社 森本 吏一
ニチアス株式会社   柴田 秀史

1.はじめに

 石油化学プラントでは,さまざまな圧力・温度下で多種多様な流体が使用されている。フランジ締結体は一般的には,JIS B 22201),JPI-7S-652)などを参考に設計され,内部流体およびフランジ形状(スリップオン溶接式,突合せ溶接式など)を考慮してガスケット仕様が決定される。フランジ締結体からの内部流体の漏れ防止は,プラントの安全・安定操業を確保する上で非常に重要である。さらに,環境対応としての排出規制についても,漏れ防止には高い信頼性が求められる。
 密封性能を維持するには,これらの内容を理解して適正なガスケットを選定するとともに,適正な時期(使用期間)での取り替えが必要である。ジョイントシートガスケットは,バインダーであるゴムの硬化劣化や薬品の耐性劣化を把握することにより取替時期の設定が可能であったが3),バインダーとしてゴムを使用していないふっ素樹脂系シートガスケットにおいては,材料劣化が比較的少ないことから,取替時期の設定が難しい。今回,ふっ素樹脂系シートガスケットの面圧をベースとした取替時期(寿命)設定の検討結果について報告する。

2.試料

 本試験ではニチアス社製のふっ素樹脂 PTFE系のガスケット(TOMBOTM No.9007 ナフロン® PTFE打抜きガスケット)を使用した。ふっ素樹脂は優れた耐熱性,耐薬品性,電気絶縁性,非固着性,耐候性を兼ね備えた合成樹脂で,化学,食品,電気・電子,半導体, 自動車産業等において幅広く使用されている4)
 TOMBOTM No.9007 ナフロン® PTFE打抜きガスケット(以下TOMBOTM No.9007)は,PTFEシートから所定の寸法・形状に打ち抜き加工したものである。純粋なPTFEシートなので,ほぼすべての薬品に対して耐薬品性があり,汚染を嫌う流体にも使用可能である。また100℃以上の温度ではクリープによる変形が大きくなることが知られている5)

3.漏えい開始面圧確認試験

 面圧をベースとした取替時期を設定するには,漏えいが開始する面圧を知ることが重要である。そこでJIS B 24906)のシール試験方法に準じて試験を行った。なお,試験はニチアス㈱鶴見研究所で実施した。

3.1 試験方法
 JIS B 2490 の試験シーケンス(表1)は,1回の試験において,ステップS3の締付面圧20N/mm2およびステップS8の締付面圧40N/mmの2条件からの復元方向のシール性が1つの試験で分かる点で優れている。しかし,今回対象としているTOMBOTM No.9007(厚さ3mm)の最小締付面圧は,14.7N/mm2 であり,ステップS3やステップS8の面圧よりも低い。また,JIS B 2490のステップS5まで復元させても石けん水発泡法で漏れが検出されるレベルには至らないことが分かっている。そこで,試験シーケンスNo.1として,ステップS1~ S5まではJIS B 2490と同じで,ステップS6としてさらに締付面圧を2N/mm2にしたものを実施した。また,試験シーケンスNo.2として,試験シーケンスNo.1 のステップS3 の締付面圧だけを14.7N/mm2に変更したものを実施した。なお,シール試験条件は表2のとおりとし,漏えい開始点は,石けん水発泡法で検出可能な漏れ量3×10-4 Pa・m3/s とする。

表1 試験シーケンス
表2 シール試験

3.2 試験結果
 試験結果を表3に,実負荷面圧と基本漏れ量との関係を図1に示す。初期の面圧が低い方が,漏えい開始面圧が若干ではあるが,高い結果となり,初期締付時のフランジとガスケットの密着性が影響していると考えられる。ガスケットの取替時期は,ガスケット面圧が18.4N/mm2(≒最小締付面圧14.7×安全率1.3)となる様に締結し,オーブン内で100℃保持し(図2),この時の応力緩和曲線(図3)の,応力緩和がある程度安定したと推測される40時間から100時間の近似曲線(対数近似)の式を得て,漏えい開始面圧に到達するまでの時間を算出した。最高面圧20N/mm2(表3)の場合で10,000年,14.7N/mm2の場合で3,400年となった。

表3 試験結果
図1 実負荷面圧と基本漏れ量の関係
図2 応力緩和試験の外観
図3 応力緩和曲線参考例

4.振動が面圧に及ぼす影響

 前項の試験結果では,ガスケット取替期間が,予想以上の長期間となった。これは,初期締付時のフランジとガスケットの接触面の密着性,いわゆる"なじみ"の影響で,特に外乱の無い静置状態であると,初期の"なじみ"が保持され,面圧を低下させても漏えいし難くなっていると考えられる。そこで,現場での外乱要因として,振動を負荷することによる漏えい開始面圧の変化について確認を行った。

4.1 振動値
 加振値の設定にあたり,現場に設置している比較的振動の大きい,遠心ポンプとダイヤフラムポンプの吐出配管を対象に,3方向(水平,垂直,軸)の振幅値と周波数の測定を行い,以下の結果を得た。
・遠心ポンプ:0.5mm(p-p)・60Hz
・ダイヤフラムポンプ:1.4mm(p-p)・4.9Hz
 なお,変位量の測定はレーザー変位計を用いた(図4)。

図4 振動変位測定試験の外観

4.2 試験装置
 試験装置の概略図を図5に示す。加振機(図6)と床面に固定した配管に内圧を測定するために側面に穴加工したフランジを設置した。フランジを締結するボルトにはひずみゲージを取り付け,締付力を測定し,ガスケットの締付面圧に換算する(表4)。また,穴加工したフランジ側面に配管,圧力計, バルブを接続し,外部からコンプレッサーにより配管内に圧力を負荷する。なお,試験はニチアス㈱浜松研究所で実施した。

図5 加振試験 概略図
図6 加振機
表4 試験フランジ仕様

4.3 試験方法
 漏えい開始面圧確認試験にて得られた面圧である3.4 ~ 3.6N/mm2よりも少し高い面圧を目標に締め付け,コンプレッサーにて配管内に圧力を負荷した後,加振機にて加振する。設定時間加振し,封入した空気の圧力降下より漏れ量を求める。ここで,加振条件を表5に漏れ量の計算式を式(1)に示す。
Q=V・(P2-P1)/Δt …………………………(1)
 Q:漏れ量[Pa・m3/sec]
 V:試験体の内容積[m3
 P1:試験開始時の試験体内圧[Pa]
 P2:試験終了後の試験体内圧[Pa]
 Δt:試験開始から終了までの時間[sec]

表5 加振試験条件

4.4 試験結果
 加振機を用いた試験結果を表6に示す。現場にて測定した実機よりも厳しい条件7)で振動を付与したが,いずれの条件でも漏れは生じなかった。また振動付与による軸力低下も発生せず,通常運転時に発生している振動レベルであれば,初期締付時のフランジとガスケットの接触面の密着性に対する変化は小さく,漏えい開始面圧に影響はなかった。

表6 加振試験結果

5.表面粗さが面圧に及ぼす影響

 プラントの屋外設備においては,水分や流体中の塩素イオン(塩分など)がフランジシート面に侵入し,隙間腐食やピッチング(孔食)の発生,締結の繰り返し等により,表面粗さが大きくなる。この,シール面の表面粗さの違いが,漏えい開始面圧に与える影響について確認を行った。

5.1 実機使用後の表面粗さ
 実機で使用中の締結体の中から,フランジシート面の腐食進行が激しいフランジを4 枚(図7)選び,スケール除去前後の表面粗さを測定した。スケール除去前の一部にJIS標準のRa=3.2 ~ 6.4を超えている箇所が確認されたが,スケール除去後はJIS標準値であった(表7)。

図7 測定フランジ外観
表7 実機フランジの表面粗さ測定結果

5.2 試験方法
 試験装置および試験シーケンスは3項の漏えい開始面圧確認試験と同様とし,試験プラテンの表面粗さを「標準粗さ」と「実機レベル」「粗め」の3 段階で行った。試験プラテンの表面粗さを表8に示す。

表8 プラテン表面粗さ

5.3 試験結果
 試験結果を表9,図8に示す。漏えい開始面圧5.3N/mm2 を用いると,初期締付(使用開始)からの寿命は0.029 年(11日)となり,表面粗さが粗いと,漏えい開始面圧が高くなった。但し,JIS規格の公差内であれば,大きな違いはなく,実機で使用されているレベル内であれば,漏えい開始面圧に大きな影響はないと思われる。

表9 表面粗さ別 漏れ試験結果

6.おわりに

 ふっ素樹脂系シートガスケットにおける応力緩和曲線の傾きより算出した取替時期(寿命)は,ふっ素樹脂の材料劣化が比較的少ないとはいえ想定より長い期間となった。また外乱や長期間使用によるシート面の劣化の影響等で,漏えい開始面圧が上昇すると考えたが,有意な差は確認されなかった。高圧ガス保安協会による,高圧ガス事故の原因別による分析(令和6年度高圧ガス関係事故年報)では,締結管理不良およびシール管理不良が,令和5年に113件,令和6年に101件発生している8)。今回の試験は,小口径で行ったが,現場においては,大口径のフランジ締結体において,漏れやにじみが発生しやすいことを経験している。当社三菱ケミカル㈱には協力企業の作業者の技能向上目的として締付力の可視化が可能な大口径締付教育装置(図9)があり,この装置を用いてニチアス㈱と大口径のフランジ締結体に関するさらなる検証を進めていきたいと考える。

参考文献

1) JIS B 2220:2012.鉄製管フランジ
2) JPI-7S-65:2011.フランジ及びバルブのP-Tレイティング
3) シール材Q&A 第7 回.ニチアス技術時報.No.377,p.20-21(2017)
https://www.nichias.co.jp/cms/nichias/pdf/report/2017/377_all.pdf
4) ナフロン® 素材の紹介.ニチアス技術時報.No.411,p.7(2025)
https://www.nichias.co.jp/cms/nichias/pdf/report/2025/411_02.pdf
5) ニチアス ガスケットNAVI 製品詳細「ナフロン® PTFE打抜きガスケット」
https://www.gasketnavi.com/gasket/detail.html?id=9007
6) JIS B 2490:2008. 管フランジ用ガスケットの密封特性試験方法
7) ISO10816-8:2014. Reciprocating compressor systems
8) 高圧ガス保安協会ウェブサイト「令和6 年度高圧ガス関係事故年報(経済産業省委託事業)」
https://www.khk.or.jp/public_information/incident_investigation/hpg_incident/statistics_material.html

*本稿の測定値は参考値であり,保証値ではございません。
*「TOMBO」はニチアス㈱の登録商標または商標です。
*「ナフロン」はニチアス㈱の登録商標です。

筆者紹介

石田 貴大
三菱ケミカル株式会社 広島事業所
設備技術部 機械技術2グループ
設備管理業務

森本 吏一
三菱ケミカル株式会社 広島事業所
設備技術部 部長

柴田 秀史
ニチアス株式会社 基幹産業事業本部
プラント技術部 技術サービス課